観てのお愉しみ

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「おーい、映画にいくぞぉー」
 その声と共に踏みしめた廊下の床がギシギシ聞こえてきた。声の主とギシギシの音の主は十歳違いの兄。
 こんな退屈なときに置いてけぼりなんてたまるものかと慌ててその後を追いかけた。
 きっと日曜日とか夏休みだったのかも知れない。弟も聞きつけて駆け寄ってきた。
 兄がもう自転車の方向に向かって靴を履きかけていた。私も弟も自分の自転車めがけて走りよった。
 田舎町ではどこに行くにも自転車です。
 バス路線が整備されている地域なんてほんのわずかである。
 中学生の私と弟から見ると、十歳も違う兄は立派な社会人であり、お小遣いは持っているし、知識は豊富だし、ちょっと大げさですが憧れの人でもある。その兄の誘いであるから聞き逃すはずもなく、鶴の一声で私たちはいっぺんに「金魚の糞」と化した。
 
 砂利道を一列になって映画館のある町まで踏む。ときどき、行き交うトラックの巻き起こすホコリをかぶりながらも、それが通り過ぎるとグイとお尻を上げて踏む。
 私たちも一斉にそのタイミングでお尻を上げて踏む。町まで約三キロだった。
 町には映画館が三つほどあった。アクション系の日活と文芸物の松竹と時代劇の東映である。
 その三カ所を行ったり来たりしながら何を見るか物色するのですが、何しろヒマを持て余して急に飛び出してきたものだから強い欲望もなく決めかねてウロウロする始末。
 そのとき突然「パチンコ屋に行こう!」と兄が言い出したのです。おいおい、面倒くさくなったとはいえそれはないでしょ!と叫びながら押しとどめた。
 私たちは紛れもなくまだ十代の中学生なのですから、ここだけは黙ってくっついたままの「金魚の糞」というわけにはいきません。
 それでもう決断するしかないと思い、選んだのが東映の「四谷怪談」。つまり、お岩さん。
 ユーレイのお岩さん、ということしか知らないが、きっとゾクゾクする面白い話に違いないと思った。とにもかくにも、これでパチンコ屋さんには行かなくてすんだので私と弟はホッと胸をなでおろした。

 映画はもう始まっていて場内は薄暗く、人の足を踏まないように、飛び出た頭の影が映らないようにと、腰をかがめながら空席を見つけてなんとか座ることができた。スクリーンではお侍さんとお岩さんらしき女の人が話しをしていた。かなり接近して演技をしている。そのうちにもっと接近して身体をふれあい、よじれ合い・・・
 なんだか落ち着かなくなってきた。
 冷や汗も出てきた。
 心臓の鼓動も心なしか早くなる。隣りの弟を見るとやっぱりそわそわ落ち着かない様子。
 スクリーンではますますお岩さんの着物がめくれ上がり、お侍さんの手はスルスル着物の隙間に滑り込み、どうみてもいかがわしい雰囲気が漂っている。ああ、これって・・・タダのお岩さん映画とは違うんだ、と遅ればせながらやっと気がついたのでした。
 少し離れた席の兄の様子をうかがうと、身動きもせず正面を見ている。あちらは大人。
 こちらは子ども。これはもう出るしかない、早くここを去らねば、と焦るのですが身動きするのさえ恥ずかしく、迷うこと数十分。あらためて場内を見渡してみた。ああ、道理で子どもが入っていないわけだ。
 勇気を出して早く出なければと、弟をつついて促し飛び出した。出てから、見るとはなしに入り口のポスターが目に入った。
「四谷怪談」のアタマに「大人のための」というような言葉がくっついていたのだった。
 これがミソだったんだ!
 見逃した私が馬鹿だったんだ!
 つまり、未成年お断り?

 こうして「観てのお愉しみ」には少し早い、スリル満点の経験をしたのでした。
 それにしてもなんて兄なんだ。当時はどうも小学校の先生らしかった。
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# by harappa-ohirune | 2009-06-21 02:30

さがしてる言葉


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知らないうちに消えてる
気のきいた言葉だった
ノートはどこだっけ・・・
と思ったときはリズムがあった
1枚目を開いたときも息をしていた
でもペンをもったときには飛んでなくなっていた
重力の重い方に流れて行った・・・
丸い地球で待っていれば戻ってくるのだろうか
「地球は青かった」より光る言葉ならきっと戻ってくるに違いない
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# by harappa-ohirune | 2008-04-22 22:46 | はらっぱの詩

桜の季節

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「桜がすき」と何回言ってもかまわない

でも・・・

「桜が散るのはきらい」とは言わないで
「花が咲けば散るのは当たり前」だからではない
「きらい」という言葉がきらいだから

だから・・・

「きらい」だとは言わないで
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# by harappa-ohirune | 2008-04-17 17:26 | はらっぱの詩

お花の決心

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こん〜なちいさなつぼみの中に
お花たたんでいれてあるの♪

こんなへんてこな中途半端なメロディーを何十年も口ずさんでいる。前奏もへったくれもない。年がら年中まったくおんなじ。なぜかここだけでピタッとやめられるから不思議。

お花はきっと「ボクはこんなカタチ」って固い決心で咲くに違いない。
花に限らず生き物はみな固い決心で生まれるんだ。だから途中で引き返す事はしないにちがいない。

ああ、でも引き返したい時だってあるんだろうなあ。。
ああ、でも何回引き返しても、そう思う人ほど(そう思う物ほど?)何回も引き返したくなるから結局は引き返せない。「ボクはこんなカタチに決まっていたんだ」ってね。きっとね。ある意味、みんな潔く出来ているのかもしれない。
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# by harappa-ohirune | 2008-03-16 16:22 | あれこれエッセイ

春だもの

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彩りの3月だもの。
「もう後戻りはなしよ」と思いたい。
苦しい事があればあったほど。

でも中には苦しくて苦しくてきっぱりした3月について行けない人もいるかもしれない。
そんな事を思うと私も一緒に立ち止まっているのもいいかなあなんて思わないでもない。
でも私を取り巻く太陽は間違いなく七色の色を染めにかかる。それが与えられた仕事だもの。

薄暗い日の差し込まない部屋で、夕べの食べこぼしの菓子くずを拾っていてハッとすることがある。
急に日が射してすばらしくおいしい食べのこしに見える事があるからだ。食いしん坊なのかもしれない。
でもそんな時は思わずカーテン越しに窓の外を見上げる。たいてい太陽が顔を出している。
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# by harappa-ohirune | 2008-03-02 07:28 | あれこれエッセイ

秋日和

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通り過ぎた小径
足を止め振り返った

葉っぱがつぶやいていた

ひとやすみ
ひとやすみ
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# by harappa-ohirune | 2007-10-13 22:41

呼びかけ


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おーい。
ひっそり生きている人ぉー。

・・・返事するわけないよなぁ。
香取線香のように煙もださないし。
長靴のようなべたべたした足跡も残さない。
コオロギほどの耳もあるのかないのか。
だいいち息もしていないかもしれない。

どうにもこうにもひっそり生きている人は話がしにくい。
なんにも話しかけてこないので話のしようがない。
なんてったって神さまのくらいひっそりしている人はいないねぇ。
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# by harappa-ohirune | 2007-09-18 16:50 | はらっぱの詩

生きている音

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赤ちゃんはすこやかに伸びてすやすや眠る
少女ははスクスク伸びてクスクス笑う
少年はズンズン伸びてズシンズシン歩く
大人はゆるゆる伸びてしずしず老いてゆく

人はひっそりは生きられない
広がる青空や夕焼けを見たら思わず音を奏でてしまう
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# by harappa-ohirune | 2007-09-18 16:47 | はらっぱの詩

嵐の翌日

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洗濯をした。
干そうとしたらポコンと何かが転がった。
はて?手のひらにのせたら、見かけないボタンだった。
そっとテーブルにのっけて考えた。
こういう物はなくしちゃ後悔する。
また考えながらどんどん干して行った。
ズボンを干したところで気がついた。
 あ、ドングリのボウシだ!

一つだけ拾ってポケットに入れたどんぐりの他愛ないお話。
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# by harappa-ohirune | 2007-09-10 20:39 | はらっぱの詩

<梅雨の晴れ間>

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一瞬の小さな影
蝶は気がついているかな?
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# by harappa-ohirune | 2007-08-30 14:40 | はらっぱの詩